月々特集4月 「機能的で美しい。柳 宗理のタイムレスな白磁のうつわ-和食器シリーズ復刻」 2023年
2022年冬、柳 宗理デザインの家庭用食器「柳 和食器シリーズ」を株式会社 深山が復刻いたしました。
直線的なラインで構成された急須や、切り立ち形の湯呑み。モダンで洗練された形状が特徴的なこの和食器シリーズは、1975年、日本を代表する工業デザイナー・柳 宗理(1915-2011)によってデザインされました。染付紋様の和食用食器として開発された同シリーズは、柳がデザインした製品を取り扱う専門店「Yanagi-Shop」のオリジナル商品として販売され、2000年代に再販されてから終売に至るまでの十数年間は「和食器 丸紋」の名称で親しまれてきました。
「Yanagi-Shop」を中心に長年親しまれてきた和食器シリーズは、数度の生産工場の変更に伴う生産上の課題で器のデザインが変更され、開発時と異なる形状のまま長年製造されていました。
今回の復刻では、柳工業デザイン研究会の監修を受け、現存している開発当時のモデルから製品のかたちを綿密に測定。注ぎ口の取り付け位置や釉薬のたまり方を数ミリ単位で調整しながら、開発当初の形状を復元しました。また、柳 宗理によって考案された染付の紋様〈渦潮紋〉は銅版転写の技法により再現。48年の時を超えて、柳が手掛けた当時の和食器シリーズを現代へ再生しました。
柳 宗理 (やなぎそうり)
工業デザイナー。民藝運動をおこした柳宗悦の長男。1940年に東京美術学校西洋画科を卒業。戦後、工業デザインの研究に着手し、第11回ミラノトリエンナーレでは「バタフライスツール」を含む展示で金賞受賞。1977年からは父が創設した日本民藝館館長に就任。2002年には文化功労者として顕彰され、晩年まで数多くのデザインを手がけました。
柳工業デザイン研究会
YANAGI DESIGN (柳工業デザイン研究会)は1953年、柳宗理によって設立されました。使い手の視点に立ち手で模型を作り、試しながら考えるデザイン手法を、一貫して続けています。そのデザイン理念を若い世代に伝えるべく、デザイン啓蒙・教育活動にも取り組んでいます。
復刻製品のご紹介
01:急須
円柱形が特徴的な急須は、柳 和食器シリーズのアイコン的存在。見た目の印象ほど大きくなく、サッと使える気軽さがあります。こちらの急須で煎茶碗2人分のお茶を入れることが来ます。
モダンな雰囲気のある和食器ですが、実際に手に取ると柔らかな丸みを感じとれます。手に馴染む形にデザインされているから、毎日のお茶の時間にも使いやすくおすすめです。
02:湯呑
一見するとそば猪口のようにも見えるこちらの湯呑は、手のひらに収まるコンパクトなサイズ感。経が大きすぎないから、持ったときにしっかりと支えることができます。
底が広いため安定感があり、手をひっかけてお茶をこぼす心配がありません。ご自宅用はもちろんのこと、おもてなしの器としても◎。
03:醤油差し(大)
底を広くとった形状のしょう油差しは倒れにくく実用的。少し多めにおしょう油を入れることができるしょう油差し(大)は、保存容器としても優秀です。
04:飯碗
伝統的な碗形(わんなり)の形状に、末広がりの高台がついたお茶碗。男女兼用で使える大きさなので、男性用、女性用と分ける必要もなく、スタッキングもできるから収納も省スペースに。
05:5寸皿
直径15cmの平皿は、取り皿や銘々皿として丁度いい大きさ。フチが立ち上がっているため、汁気のある和食も安心して取り分けられます。底面はフラットになっているから、パンをのせたりケーキ皿としてもお使いいただけます。
06:3.5寸豆皿
直径11cmの豆皿は、5寸皿よりもフラットなかたち。副菜やおしょう油皿として使うのはもちろん、おつまみや菓子受けなどいろいろな使い方ができるのが豆皿の魅力です。
深山から伝えたい 和食器シリーズ3つのポイント
Point 1:和食器シリーズに描かれた紋様 【渦潮紋】
ミラノトリエンナーレをはじめ様々なデザイン賞を受賞してきた柳は、数々の食器をデザインしてきました。しかし、「形そのものが模様であり、見えない模様こそが本当の模様」という柳の言葉からうかがえるように、それまでに柳が手掛けてきた食器は無地の白い食器が中心。装飾をほどこした食器はほとんどありませんでした。
不要な装飾を避けてきた柳でしたが、和食器シリーズには染付紋様を施し、周囲の人たちを驚かせたと言います。「これにはこの模様があってよい」と、自らデザインした渦潮紋をあしらったこのシリーズは、柳がはじめて紋様を施した食器となりました。
和食器シリーズが誕生した当時の日本は、まだ無地の器が一般的でなかった時代。当時のニーズに合わせて柳が選んだ装飾は、シンプルな染付紋様でした。長年にわたって愛されてきた渦潮紋は、48年の時を経た今でも新しさを感じさせます。
Point 2:紋のないミニマルな新アイテム【古白磁】
呉須紋様とともに愛されてきた和食器シリーズに、特別なアイテムが追加されます。道具としての持ち味と現代の暮らしの在り方との調和を求め、白のみという最小限の要素に落とし込んだ無地のうつわ”古白磁”の製品を新たに発売します。純白の白磁土とほのかに青みがかった透明釉のみで構成されたアイテムは、現代的でミニマルな印象に仕上がりました。和食器シリーズを形作る柳 宗理の造形美を古白磁の色合いとともに感じることが出来ます。
Point 3:現代に使いやすいサイズで新登場【しょうゆ差し(小)】
キッチン用品やカトラリーなど、使用者の目線に立ったデザインが際立つ柳 宗理のプロダクト。しょうゆ差しはまさに柳のものづくりの姿勢を反映した製品のひとつと言えます。テーブルの上で使われることを想定してデザインされたこのしょうゆ差しは、フラスコのように底を広くすることによって、うっかり手が当たっても倒れにくくなっています。主張しすぎないシンプルなデザインと、使い勝手のよさが調和した柳のキッチンツールは、まさに食卓を支える影の功労者。
1970年代、今よりも和食を食べる機会の多かった当時の日本では、しょう油差しは保存容器としての役割も担っていたため100cc~150ccほどの容量が一般的でした。そのため、柳が開発したしょうゆ差しは多めに入る100ccのサイズで設計されています。現在の日本では、和食以外にもさまざまな料理が食べらるようになり、お醤油を使うシーンは昔よりも少なくなりました。こうした現状を踏まえ、株式会社深山と柳工業デザイン研究会(YANAGI DESIGN)は、共同でハーフサイズの醤油差しを新規に開発。柳 宗理のオリジナルデザインをもとに、50ccという使い切りやすいしょうゆ差し(小)が誕生しました。しょうゆ差し(小)は、今回新たに加わった”古白磁”限定のアイテムです。
柳宗理のこころと深山の手仕事 ものづくりのこだわり
ここからは、和食器シリーズがどのようにつくられているのかをご紹介します。
まずは作りの工程から。深山で作られている製品は型を用いた成形方法によってひとつひとつ作られています。決して大量生産には向かない手法ですが、人の手を介するからこそ細かなディティールを実現することができるのです。
乾燥させた粘土は一度800度の温度で焼成し、水分を完全に飛ばした状態に。この状態の粘土は素焼きと呼ばれています。ガラス質を含んだ釉薬と呼ばれる液体に浸すと、吸水性を利用して釉薬が均一にコーティングされます。
釉薬が塗られた製品は窯に入れられ、1350度の温度で焼成されます。釉薬と粘土は窯の中で化学反応を起こし、釉薬は透明なガラスに、粘土は白磁へと変化します。深山の製品を長くお使いいただける理由は、ガラス化した白磁が汚れを洗い落としやすくしてくれるから。
その後、不良がないか厳しいチェックを受けた製品は各家庭の食卓へ届けられます。飾らない素直な造形をうみだした柳宗理のこころと、実直に作り続ける深山の手仕事。ふたつの仕事から生まれる製品を長く愛していただければ幸いです。
最後までご覧いただき誠にありがとうございます。
時を経てもタイムレスに使い続けられる、柳 宗理の白磁のうつわをご紹介いたしました。(おわり)
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