うつわリポート

深山の開発担当者による、うつわ深堀り解説。普段は何気なく手に取るうつわにも、実はたくさんの技術やこだわりが詰め込まれています。もっとうつわのことが好きになったり、知りたくなったりするきっかけになればうれしいです。

うつわリポート「白い素材から生まれる白いうつわ‐ciro(シロ)‐」2024

■白い素材を伝え楽しむ器「ciro」

■ciroカップMソギスジ。シンプルな形状の定番なカップの側面に釉薬が描いた縦筋のストライプ

白い素材は在った。そこから時が流れ様々が堆積し土となり白さは埋もれた。時は過ぎ、いつの頃か、なぜなのか、人は土に白さを見つけ、精製し白い素材は再び現れた。足元に在るのに気づけない、その美しさを身近な道具とし、個性を伝え、楽しむ器として「ciro(しろ)」は誕生しました。


■白にこだわる理由

■昭和40年代、輸出用の洋食器に釉薬(ガラス質の液体)を施す職人。その視線は、今まさに釉薬を施している右手の器にではなく、これから釉薬を施す左手の器に注がれている。つまり、釉薬を施す作業は体で覚えているのでわざわざ見る必要は無く、次に釉薬を施す器を検品している。という事。

私たち深山が器を作っている「岐阜県瑞浪市」は、50年程前には世界でも有数の輸出用白磁洋食器の生産地でした。釜戸長石(ガラスの原料の1種)など良質な白磁の為の素材が産出された地域の特性と、安土桃山の時代より日本国内向けの和食器を生産し培われた技術が融合し、欧米の名だたる名窯の下請けとして、その名だたるブランドの名前で毎日膨大な量の食器を生産し、地域のみならず国の基幹産業の一つとして活況をていしていました。輸出産業の活況は1985年のプラザ合意による大幅な為替の変動、円高の進行で終焉を迎えますが、それまでに培われた素材や技術に対するものづくりの価値観は、美濃焼の中でも瑞浪市の美意識として醸造されました。

その当時から受け継いだ『白磁への想い』を器として表現するため、白にこだわりciroは生まれました。


■三つの“白”の表情

■土としての白、ガラスコーティングとしての白、絵具としての白

この器では白を三つの手法で表現しています。

一つ目は【土としての白】。器外側の絵柄が無い部分が“土としての白”です。この土には、器を形づくるためのきめ細かい白い粘土分を多く調合しているので触れるとしっとりとした質感ががありますが、その内側にはガラス成分を含んでいるので1340度で焼き締めることで、土自体がガラス化して汚れが染み込まず、洗い落とし易くなります。

二つ目は【ガラスコーディングされた白】。器内側全体の光沢が“ガラスコーティングの白”です。土としての白の表面にガラス成分を特に多く調合した透明感のある釉薬(ゆうやく)を施すことで、光沢のある仕上がりとなり、輝かしい印象と共に、いっそう汚れが洗い落とし易くなり、道具としての安心感が高まります。

最後は【絵具としての白】。外側のストライプやボーダーの絵柄が“絵具としての白”です。意図的にガラス成分や白い土を多く顔料に調合し美濃和紙に印刷する事で絵柄に厚みがある転写を作り、その転写にて“釉薬銅板転写下絵付(ゆうやくどうばんてんしゃしたえつけ)”という技法で器に絵を付着させます。土としての白の上に絵具としての白がある事で、質感や厚みのコントラストを表現し、やきものの面白さを目の当たりにします。

●[YouTube]銅板転写した絵付け技法の説明

このように、一つの器に三つの白の質感を組み込むことで、白い器の幅広さを表現しています。


■古くて新しい技法「釉薬銅板転写下絵付(ゆうやくどうばんてんしゃしたえつけ)

ciroシリーズの側面の柄を絵付けしている技法のベースは“銅板転写下絵付(どうばんてんしゃしたえつけ)”と呼ばれる技法であり、江戸時代後期に国内のいくつかの産地で実験的な生産が開始した古典的な技法です。深山がある岐阜県瑞浪市でも1846年(弘化三年)に里泉焼(りせんやき)という名の窯元が試作を試み、地元の陶磁器資料館には当時の試作品が展示されています。

【里泉焼のうつわ】約170年前の試作品。和紙に呉須(コバルト)顔料で絵柄を印刷し器に写し取る。最大の課題は染付のような明るい発色を再現する事だったと言われる。

この技法をベースに、顔料に呉須(コバルト)ではなく、透明釉を加えたものが「釉薬銅板転写」。ガラス成分が多い釉薬を使用することで絵柄に光沢や厚みが生まれ陰影が美しく表現される。この技法を手掛け始めたのが2010年頃。印刷技術の発展に伴い、かつては難しかった厚みのある印刷が可能となり実現した。古典的な技法をベースに、現代の技術を取り込むことで、懐かしみのある“やきものらしい質感”と新たに生まれた“陰影の美しさ”が融合した器となります。

●釉薬銅板下絵付によるciroの絵柄①【ロクロメ柄】やきものの定番成形技法「轆轤(ろくろ)」で器を作ると土を上から下に伸ばす指に沿って円環の微かな凹凸が生まれます。その凹凸をボーダーのようなパターンとしてデザインし釉薬銅板転写で絵付けした。

●釉薬銅板下絵付によるciroの絵柄②【ソギスジ柄】やきものの装飾技法の一つ「削ぎ(そぎ)」。専用に作ったカンナを使って土を掘り削り表面に凹凸をつける、その中でも縦に削ぎ落したものはストライプパターンのように親近感を感じる。


■カップが3サイズある意味

●(左より)カップS/ウォーターカップとして朝一杯のお水を、カップM/容量160㏄。マグカップやフリーカップのサイズとしてお茶にお酒に、カップL/容量240㏄はかなり大きめ。カフェボウルのような感覚で。

ciroシリーズのカップには3つのサイズがあります。しかし、基本的には“カップM”サイズがあれば暮らしの大半はこと足りると思います。それくらいMサイズは持ち易さや容量を意識してデザインしました。しかし、あえてSサイズとLサイズを作り3サイズで展開しました。それは創造的なライフスタイルのために……。暮らしの中心のMサイズと、暮らしの幅を広げるSサイズLサイズ。

■それぞれのカップのサイズの存在理由

【暮らしの定番】ciro(しろ)カップM/φ85×h80mm 160cc

朝昼晩の三食のいつでもお茶や牛乳や野菜ジュース、アルコールならビールや焼酎ロック、ワインにも……ちょうど良いくらい入って、素直に持ち易い。主張はしないけど、存在感は示すデザイン。毎日隣にいても心地よいし、大切な日に近くにあると誇りとなる。カップMはサイズ、フォルム、パターンの全てが定番として違和感が無いことを大切に生み出しました。

まず、このサイズが手に取って頂きたい!そんな存在の器です。

【心を満たす暮らし】ciro(しろ)カップS/φ70×h70mm 120cc

手のひらにストンと納まるタナゴコロなカップ。起きしなの体に入る天然水。昼さがりに丁寧に淹れた日本茶。その日の最後に喉を流れるお気に入りのウイスキーや日本酒。心を満たすための微かな一杯のための小さな器。

【ゆとりある暮らし】ciro(しろ)カップL/φ100×h90mm 240cc

たっぷりとした容量のカップL。休日の午後、ゆっくりと本を読むときにたっぷりのカフェオレを。心地よい朝の風を走り抜け乾いた体に流し込む飲めるだけのピュアウオーター。とっておきのワインを注ぎ広がる香りを楽しむ。大きさとは自由度。自由に楽しむことができる大きさのカップで暮らしにゆとりを。

 

ciro(しろ)シリーズはこちら


月々特集
暮らしのうつわ特集
うつわリポート

\ Follow Me /

 face book / instagram


岐阜県瑞浪市。三市からなる美濃焼産地の中でも磁器、特に白磁の製造に特化したこの地区に深山はあります。
昭和中後期、世界の工場として欧米の洋食器ブランドの依頼に対し上質な白磁の洋食器を供給した時代に培われたものづくりの基礎。
私たちは、それら受け継いだものを基に、現代の暮らしに寄り添った丁寧な道具としての器を作っています。
製造や製品、使い勝手に関するお問い合わせなどございましたらお気軽にお問い合わせください。

Mizunami City, Gifu Prefecture.
Miyama is located in the Minoyaki producing area consists of three cities where porcelain, especially white porcelain is produced.
Foundation of manufacturing that was fostered during the middle and late period of Showa era when western style white porcelain tableware was provided, having received orders from the European and American tableware brand companies.
We are producing tableware as a gracious tool suitable for contemporary life associated with what we have inherited.
Please feel free to make inquiries to us about producti

関連記事一覧